ヨーロッパの特許 - 基本編

ヨーロッパで特許権保護を受ける方法には、色々有ります。ここでは、その方法を簡単に説明します。

一つは、欧州特許庁(EPO)に単一の出願をし、取得後多数のヨーロッパの国々で効力を発揮する事の出来る特許権を得る方法です。欧州特許庁は、欧州特許条約(EPC)の全ての締約国で有効な特許権を付与する権限を持った政府間機関です。欧州特許条約の締約国は現在38カ国です(締約国のリスト)。

欧州特許条約の締約国は、欧州連合(EU) の国とは限りません。欧州特許条約の締約国には、現在全ての欧州連合加盟国が含まれますが、欧州連合に加盟していない国々も含まれています(ノルウェー、トルコ等)。

欧州特許庁が特許権を付与したら、出願人はどの国で発明の保護を求めるかを選びます。その結果、出願人は選択した国の各国で有効な、別個の特許権を複数持つ事になります。これらの特許権は、個別に各国の法律で律されます。つまり、特許権取得後の特許の有効性や侵害等の問題は、特許権を有効とする各国の特許庁や裁判所の管轄に属します。

発明の保護を求めたい国々それぞれの特許庁に、個別の特許出願を提出するという方法も有ります。この方法には短所も有りますが、ごく少数のヨーロッパの国々で特許権を取得したい場合には、欧州特許庁を通じて特許出願するより、費用が少なくて済む等の利点も有ります。

欧州特許庁に出願する場合、直接出願する方法と、PCT(特許協力条約)国際出願に基づく地域段階移行として出願する方法が有ります。直接出願の場合は、日本国内での出願等に基づいた先願優先権を主張する事が出来ます。各国の特許庁への出願は大抵、PCT国際出願からの国内段階移行として出願する事が出来ます。ただし、国に拠っては(フランスやオランダ等)PCT国際出願に基づいた自国への特許出願を認めておらず、 その場合は欧州特許庁への直接出願という形を取らねばなりません。

最後に、ヨーロッパ全域で有効な単一の特許権を認可する制度は現在は有りませんが、単一の欧州連合特許制度を設けようという案が出ています。発案された制度の元では、現在の欧州特許条約制度と平行して、欧州特許庁が欧州連合加盟国の全域で有効な単一特許の審査と付与が出来る様になります。又、欧州連合レベルでの特許裁判所が設けられ、特許の有効性や侵害についての判断をする事になります。特許更新料は単一化される上、それぞれの加盟国で有効化する必要も無くなります。この制度の実現は、経費、特許有効領域の両面で、出願人に大きな利益をもたらす可能性が有ります。

現在、スペインとイタリアを除く全ての欧州連合加盟国が、発案された制度に参加の意を表明しています。スペインとイタリアは、特許出願の際の手続言語が英語、フランス語、ドイツ語のみである事を理由に、現在不参加の意を表明していますが、将来参加を決意するかも知れません。欧州連合特許裁判所をどこに置くか(主な候補地はロンドン、ミュンヘン、パリ)等、詰めなければならない計画の詳細はまだまだ沢山有りますが、欧州連合レベルでの単一の特許が、この二、三年中に実現する可能性は高い見通しです。 このコーナーでは、事の進展を見守り、重要な発展があった際にはお知らせします。

各国の特許庁から個別に付与された特許権と、欧州特許庁から付与された同等の特許権には違いはありますか。ありませ
ん。欧州特許条約には、欧州特許庁から付与された特許権にも、各国の特許庁から個別に付与された特許権と同じ様に、締約国各国の法律が適用される規定があります。但し、欧州特許庁から付与された特許権の取り消しや減縮は、例外的に欧州特許庁によって一元的に行うことができます。

欧州特許庁と締約国各国の特許庁の間に、出願手続きの際の法的要件に違いはありますか。
多数の欧州特許条約締約国での特許性に関する実体的要件の審査が、欧州特許条約のものと広く一致しています。しかし、特許権を得るまでの過程は国ごとに大きく違います。例えば、締約国であるフランス、イタリア、オランダ等の特許庁は、実体審査抜きの登録のみの制度を使っています。 他の締約国の英国やドイツ等では、欧州特許庁が行うのと同じ様な、実体審査が行われます。

更に、特許性に関する実体的要件の適用法が欧州特許庁と異なる国も有ります。例えば、英国知的財産庁(UKIPO)の用いる発明の進歩性の判断方法は、欧州特許庁の用いる課題−解決アプローチとは異なり、しばしば水準が欧州特許庁よりも低いと見なされます。

欧州特許権が付与されました。次は、何をすれば良いのでしょうか?
欧州特許庁から欧州特許権を付与されたら、出願人は特許を有効化したい締約国を選びます。特許を有効化するためには、関連各国の特許庁で特許権を登録しなければなりません。又、国によっては、クレームや特許明細書全部を現地語に翻訳したものを提出しなければなりません。有効化された特許は、それぞれの国で国内特許と同じ効力を持ちます。欧州特許は、特許有効化のされていない締約国では効力を持ちません。

特許権付与に対する異議申立の過程について教えて下さい。
欧州特許条約は、欧州特許庁の付与した特許権に対する異議申立の手続きを次の様に定めています。欧州特許庁からの特許権付与後、9ヶ月間の異議申立期間内は、欧州特許庁に特許の有効性の異議を唱える異議通知書を提出する事が出来ます。異議通知書提出後、異議申立人と特許権所有者の双方が、特許性の有無の理由を提出する事が出来ます。異議申立審査の結果は、特許権付与時のままの特許権の維持、補正した特許権の維持、あるいは特許の取り消しの三通りです。審査の結果は、特許権が有効とされる国の全てで効力を発します。この異議申立手続きは、欧州特許庁の付与する特許権に対して一元的に異議を唱える事を可能にします。

9ヶ月間の異議申立期間後は、欧州特許庁に特許の有効性の異議を申し立てる事は出来ません。代わりに、特許権が効力を持つ国のそれぞれで、個別に異議申立をする事になります。関連国の裁判所で手続きを踏まなければならない事も有れば、関連国の特許庁で異議申立が出来る事もあります。

言うまでもなく、欧州特許庁ではなく各国の特許庁が付与した特許権に対する異議申立は、特許権を付与した国で行わなければなりません。

特許権付与後の特許の補正の方法を教えて下さい。
欧州特許権付与後に、特許権所有者が欧州特許庁を通じて一元的に自らの特許権を減縮、あるいは取り消す事が可能です。各国の特許庁に於いて特許権の補正をする事も一般的に可能ですが、補正許可の基準は国によってかなり違います。

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